「業務システムを外注すると数百万円。AIを使えば自分で作れる」——最近よく見る話です。
私は清掃業の会社を経営していて、社内の経理集計をAIを使って自分で作りました。外注していません。
ただし、「だから内製が安い」とは言えません。 作ってみて分かったのは、比べるべきなのは金額ではなかったということです。
判断基準は「壊れたとき、誰が直すか」です。
ここが決まれば、答えはほぼ自動的に決まります。
金額だけ並べると、内製が圧勝する
まず、よく見る比較を並べます。
| 外注 | 内製(AI利用) | |
|---|---|---|
| 初期費用 | 数十万〜数百万円 | 実質0円 |
| 毎月の費用 | 保守料 | AI利用料のみ |
| 仕様変更 | 都度見積もり・数週間 | その日のうち |
| 納期 | 数ヶ月 | 数日〜数週間 |
この表だけ見れば、内製一択に見えます。実際、私もこの表を見て内製を選びました。
そして、この表にはいちばん重要な行が抜けています。
抜けている行:3年後に誰が面倒を見るか
自動化した仕組みは、作って終わりではありません。必ず、いつか壊れます。
- パソコンを買い替えたら動かなくなった
- OSの更新で挙動が変わった
- 取り込んでいたファイルの形式が変わった
- 使っていたサービスの仕様が変わった
どれも珍しいことではありません。そのとき直せる人がいるかどうかが、本当の論点です。
| 外注 | 内製 | |
|---|---|---|
| 壊れたとき | 頼める(有償だが確実) | 作った本人が直す |
| 作った人が辞めたら | 影響なし | 誰も触れない |
| 作った人が忙しいとき | 影響なし | 止まったまま |
| 責任の所在 | 契約で決まる | 全部自社 |
外注費に含まれているのは、作る手間だけではありません。 「困ったときに頼める先がある」という状態を買っています。内製にはこれがありません。
私が内製を選べた理由
誤解のないように書くと、私の場合は内製が正解でした。 ただしそれは、条件が揃っていたからです。
① 止まっても、その日は困らない業務だった
自動化したのは月次の集計です。動かなくても、その月は手で計算すれば済みます。1日止まると業務が止まる、という性質のものではありませんでした。
② 作った本人(私)が経営者だった
辞めることがありません。担当者が作った場合、この前提は成り立ちません。
③ 外部に迷惑がかからない範囲だった
社内の集計です。お客様や取引先に影響が出る処理ではありません。 請求書の送付や入金の消し込みだったら、内製は選ばなかったと思います。
この3つが揃っていたから内製にしました。
1つでも欠けていたら、判断は変わっていたはずです。
判断表
実際に使っている基準です。金額ではなく、性質で分けます。
| その業務は… | 内製 | 外注・既製品 |
|---|---|---|
| 止まると同日中に困るか | 困らない | 困る |
| 社外に影響が出るか | 出ない | 出る |
| 法令が関わるか | 関わらない | 関わる |
| お金が直接動くか | 動かない | 動く |
| 自社独自のやり方か | 独自 | 一般的 |
| 作った人が辞める可能性 | 低い | ある |
右列が1つでも当てはまるなら、内製は避けたほうが無難です。
特に「法令が関わる」「お金が直接動く」の2つは、金額差がどれだけ大きくても内製しないほうがよいと考えています。間違えたときの損失が、浮いた費用を簡単に超えます。
この線引きの具体例は 経理はスプレッドシート自作と会計ソフト、どちらがいいか にまとめました。
第3の選択肢:既製品を買う
「外注か内製か」で考えると見落としがちですが、ほとんどの業務にはすでに製品があります。
会計、給与、勤怠、請求。これらは月額数千円から使えます。同じものを内製するのは、時間の使い方として損です。
| 向いている対象 | |
|---|---|
| 既製品を買う | どの会社にもある業務(会計・給与・勤怠) |
| 外注する | 自社独自で、止まると困る/お金が動く業務 |
| 内製する | 自社独自で、止まっても当日は困らない業務 |
内製が向くのは、この3つ目だけです。 範囲は狭いのですが、既製品では絶対に手に入らない部分でもあります。
内製を選ぶなら、決めておくこと
それでも内製する場合、作る前に決めておくべきことが3つあります。
① 止まったときの手作業の手順を残す
自動化する前のやり方を、文章で残しておいてください。 壊れたときに戻れます。これを消してしまうと、止まった瞬間に業務ごと止まります。
② どこまで自分で直せるかの線を引く
「1週間直せなかったら、手作業に戻して外部に相談する」——この線を先に決めておきます。決めていないと、直すことに何週間も使ってしまいます。
③ 他人の業務には入れない
自分しか直せない仕組みを他の人の業務に組み込むと、その人が壊れたときに困ります。 内製は、まず自分の業務から始めるのが安全です。
まとめ
- 金額だけ比べると内製が圧勝するが、比較表に「誰が直すか」の行が抜けている
- 外注費に含まれているのは「困ったときに頼める状態」
- 内製が向くのは①止まっても当日困らず ②社外に影響せず ③作った人が辞めない業務
- 法令が関わる・お金が直接動く業務は内製しない
- 多くの業務は既製品を買うのがいちばん安い
- 内製するなら手作業の手順を残し、諦める線を先に決める
内製は万能ではありませんでした。ただし「自社にしかない見方」を形にするには、これしか方法がありません。 その一点に絞って使うのが、いちばん費用対効果が高いと感じています。


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